2025年7月31日：高まる地政学リスクと中央銀行の買いが金価格を押し上げる

今回の出来事への考察：不確実性へのヘッジとしての金

金は古くから「有事の金」と呼ばれ、経済的・政治的な不確実性が高まる局面でその価値が注目されてきた。現在の世界情勢は、この金の特性が最大限に発揮されやすい環境にあると言える。地政学的な緊張、特に地域紛争や通商摩擦の激化は、グローバル経済の先行きを不透明にし、投資家の間でリスク回避の動きを強めている。このような状況下で、国境を持たず、いかなる政府の信用リスクも負わない金は、ポートフォリオのリスク分散手段として極めて有効な選択肢となる。
また、FRBがインフレ抑制のために高金利政策を長期化させる可能性が高いことも、金にとって重要な要素である。通常、金利上昇は金利を生み出さない金にとって逆風となるが、インフレが加速する中で実質金利が低水準に留まる場合、金はインフレヘッジとしての魅力を増す。さらに、中央銀行による継続的な金購入は、金市場に構造的な下支えをもたらし、需給面からも金価格を押し上げているとみられる。

市場の動向：高まる安全資産としての魅力と通貨変動の影響

金市場は現在、地政学的なリスク回避と中央銀行による堅調な買い付けに支えられ、高値圏で推移している。特に、インドなどの主要な金消費国では、国内金価格が記録的な水準に迫っており、これは国際価格の上昇に加え、自国通貨の米ドルに対する減価が影響している。米国の経済指標が強弱入り混じる中、FRBが利下げに慎重な姿勢を崩さないことで、市場では金利の先高観が意識されつつも、同時にインフレヘッジとしての金の需要は根強い。米ドル建てで取引される金の価格は、米ドルの動向と密接な関係にあり、米ドルが主要通貨に対して弱含みに推移する局面では、ドル安が金価格の上昇を後押ししやすい。逆にドルが強含めば、金には下落圧力がかかる可能性がある。

今後の展望：金価格は高値圏で推移、調整局面にも注意

金価格は今後も、高値圏で推移する可能性が高いと見られる。主要な上昇要因としては、依然として燻る地政学的な緊張、世界各国中央銀行による金準備の積み増し、そしてインフレヘッジとしての根強い需要が挙げられる。特に、米国の金融政策の不確実性が続く限り、実質金利の低位安定は金にとって追い風となるだろう。しかし、いくつかの下落要因も考慮する必要がある。もし米国のインフレが明確に鈍化し、FRBが積極的な利下げに転じる、あるいは利下げのペースを速めるようなことがあれば、金利を生まない金にとって逆風となる可能性がある。また、地政学リスクが顕著に後退し、投資家のリスク回避姿勢が弱まれば、安全資産としての金の需要は低下するだろう。供給面では、新規の金生産が大きく増加する可能性は低いものの、既存の金の売却圧力が高まるような事態には注意が必要である。中長期的には、金はポートフォリオの分散投資において重要な役割を担い続けると考えられるが、短期的な調整局面には警戒が必要となる。