2025年7月9日：米国のインフレ懸念とドル高が金価格に重圧

政策期待と金利上昇が金市場を揺らす

昨日の金価格の急落は、主に米国の金融政策と財政政策への市場の反応に起因する。新たな関税政策がインフレを加速させるという観測は、米連邦準備制度理事会（FRB）が早期に利下げに踏み切る可能性を低下させ、むしろ高金利を維持するとの見方を強めた。これにより、無利子の金に資金を投じるインセンティブが減少した。さらに、地政学的リスクの高まりから安全資産としての金が買われる局面もあったものの、貿易交渉が進展するとの期待が浮上したことで、その需要は一時的に後退した。これは、金が単なるインフレヘッジや安全資産としてだけでなく、金融政策や国際情勢の動向にも敏感に反応する複雑な性質を持っていることを示している。

ドル高と金利上昇が主導する市場の動向

昨日の金市場では、米長期金利の上昇が最も顕著な影響を与えた。指標となる10年米国債の利回りが2週間以上ぶりの高水準に上昇したことで、金への投資家の魅力が著しく低下した。加えて、ドル指数が上昇したことで、他の通貨を保有する投資家にとってドル建ての金を購入する際のコストが増加し、金売りが優勢となった。一方で、プラチナ相場が大幅に反発するなど、貴金属市場全体で一方向の動きではなかったことも特筆される。これは、個別の金属に対する需給バランスや、特定の産業における需要の見通しが、金とは異なる影響を及ぼしていることを示唆している。

不確実性の高まりと金価格の今後の展望

今後の金相場は、米国の貿易政策の行方、FRBの金融政策のスタンス、そして地政学的リスクの動向によって大きく左右されるだろう。もし関税政策がさらに広がり、世界経済の不確実性が高まれば、安全資産としての金の需要が再び高まる可能性がある。しかし、一方で、FRBが高金利を維持し続けるようであれば、金の魅力を削ぐ要因となる。長期的には、金の供給量には限りがあり、新興国の需要増加や中央銀行による金購入の動きも継続すると見られているため、底堅い推移が予想される。しかし、短期的には、インフレ動向や金利の変動、そして国際的な政治経済情勢のニュースに敏感に反応し、ボラティリティの高い展開が続く可能性が高い。投資家は、これらの要因を慎重に見極める必要があるだろう。